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個別指導塾ESCA【暗記を重視する詰め込み教育は悪なのか】
最近、教育業界において「考える力」が重視されていることは周知の事実です。しかしその影で、「暗記」を軽視する流れが強まってきていると感じています。「受験勉強においてはなんでも暗記してしまって、考える力がやしなわれない」という言葉は、誰しも聞いたことがあるのではないでしょうか。では、丸暗記する行為というのは、将来を考えた上で是なのか非なのかということを考えていきたいとおもいます。
<目次>
1.数学はどこまで暗記する?
一番意見が分かれそうな数学を例に挙げて考えてみましょう。基本的な定理や定義、公式等は暗記しなければならないのは分かりやすいと思います。では、問題の解法は暗記すべきなのでしょうか。結論からいうと、これは暗記すべきものだと考えています。なぜなら、解法というのはノウハウだからです。
ノウハウというのは社会に出てからも非常に重要なものです。社会に出て、企業で働くことになったとき、自社のノウハウを一から考え出すことなどはしません。まずは自社ノウハウを覚えてから、新しいノウハウを開発していくのが効率的な方法です。新しいノウハウを開発するにしても、ベースとなるノウハウは必ず必要になってきます。
新しいノウハウを開発したときも同様です。新しいノウハウは結局のところ、より効率的に課題を解決するツールでしかないのですから、どんどん知識化し、暗記していかなければ、効率的に進化してくことはできません。また、知識化し、周囲と共有しなければ、後進育成もできず、まわりも成長できません。また一から似たような問題を解決していかなければならなくなります。
2.理解を伴った暗記は重要だがマストではない
丸暗記の印象が悪い理由の一つとして、理解しないまま覚えるということに対する批判があります。もちろん、理解しなければ覚えにくいし、理解していなければ応用することもできません。しかし、どうしても理解できないことや、理解に時間がかかる場合はどうすれば良いのだろうか。ベストな方法とは言えないものの、私は理解を伴わない暗記もアリだと思っています。
その際に重要なのは、使用するツールと原因・結果のセットを暗記することです。ツール自体を理解していなくても、そのツールを使用した問題と使用した結果を数多く暗記しておけば、その間は後で埋めることができます。重要なのはその間の関係性を埋めることなのですが、これは人生における経験が必要な場合が多いです。皆さんも「あのとき習ったあれは、そういうことだったのか」と後から気付くという経験があるかと思います。
しかし、実はこれも人生において経験したことを「暗記」していなければ成り立たないのです。実は私ががAI(人工知能)に興味を持っているのは、この「経験から原因と結果の関係性を見つける」ということが、まさにディープラーニングに通じるところがあるからです。これについてはまた時間があれば書こうと思います。
3.知識がないと考えられない
最近巷で話題の「考える力」においても、暗記は必須の能力です。人間は、知らないもののことは考えることができません。もっと正確に言うならば、知っていることを考える方が効率的なのです。極端な例ですが、1+1が2になることを知っていなければ、3+5はできないのです。
新しいアイディアというのは9割以上は既存のものの掛け合わせと言われています。身の回りを見渡してみても、イノベーションを起こしたと言われるものでさえ、既存のものの掛け合わせから生まれていることが多いです。代表的なものにiPhoneがあります。いうまでもなく革新的な商品ですが、これもタッチパネルと携帯電話、PCなどの要素を掛け合わせて作られています(実際はもっと複雑なのだと思いますが・・・。)
アイディアはかけ算だと簡単に言ってしまいましたが、アイディアを導きだす過程においても暗記したことは重要になってきます。なぜなら、暗記した知識やノウハウがなければ試行錯誤ができないためです。
例えば、ある命題に関して、3つしか知識を持っていないAさんと、6つの知識を持っているBさん、9つの知識を持っているCさんを考えてみましょう。(知識と思考の幅をイメージしたいだけなので、細かい話は置いといてください。)
【Aさんから出てくるアイディアや解法】
知識①
知識②
知識③
知識①×知識②
知識②×知識③
知識③×知識①
知識①×知識②×知識③
Aさんの持っている知識からは、単純に考えて、上記の7パターンのアイディアが出てくることになります。
では、BさんとCさんは何個のアイディアが出てくることになるのでしょうか。数え上げでは面倒なので、計算で求めてみると、
【Bさんから出てくるアイディアや解法】
6C1+6C2+6C3+6C4+6C5+6C6=63通り
【Cさんから出てくるアイディアや解法】
9C1+9C2+9C3+9C4+9C5+9C6+9C7+9C8+9C9=511通り
つまり、知識量が増えれば、アイディアや思考のパターンは急激に増加するのです。
逆に、知識がなければ試行錯誤もできず、考えることもできません。
4.暗記と思考のサイクルが重要
詰め込み教育の定義がはっきりしないまま、世間で一人歩きしているように感じますが、基本的にはある程度知識を詰め込むことは重要な作業です。(詰め込んだままの状態で、原因と結果の因果関係を明らかにしない、トライ&エラーをしないということであれば、確かに問題はありますが)
学習塾で教えていて思うのは、成績が上がらない子は、まず間違いなく暗記ができていないということです。授業で理解して安心してしまい、「自分は分かっている」と思い込んでしまうのです。成績が上がらないと悩んでいる方は、是非「暗記の時間」を確保してみてください。
巷ではPDCAサイクルが重要という風に言われていますが、勉強に限らず、広く「学習」という意味においては、PDCAだけではなく、「理解する」→「覚える」→「考える」→「新しい発見を理解する」→「新しい発見を覚える」→「新しいことを考える」というサイクルが重要です。
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